ちしまのにわ

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2022.07.02 Sat

アンテベラム

「ゲット・アウト」「アス」と同じプロデューサーの作品、「アンテベラム」を見ました!!
どちらの作品も好きで、しかも評価が高かったので迷わず鑑賞。
これが見事な作品で誰かにベラベラと話したいくらいのものだったのでこちらに残しておきます。
あらすじも何も知らないまま鑑賞してほしい作品なので、見る予定の方はぜひ鑑賞後にまたお会いしましょう!
ネタバレもふんだんにあります。


■逃れられぬ、人と人の因果

冒頭、奴隷としてプランテーション(農場)で強制労働させられている主人公”エデン”や同じ環境下にある黒人の男女の様子が描かれます。
時代的にはどうやら南北戦争中。
脱走したものの捕まって背中に焼き印を押されるエデン、妻を殺された男性奴隷イーライ、許可なく話すことを禁じられた奴隷の人々、どこからその傲慢さがやってくるのかと言いたくなるほどひどい差別的思考を持つ白人男女。

奴隷の強制労働シーンから数十分後、現代へと物語がシフトしてエデンと同じ顔をした女性ヴェロニカがあらわれたことにより、あぁこれは前世(というと軽いしファンタジック過ぎるけれど)からの逃れられない人と人との因果を描いたストーリーなんだなと察しました。
ヴェロニカの何代も前にエデンがいて、プランテーションに居た傲慢な白人男女への復讐というか、現代だからこその正義のスカッとストーリーなのだろうと思いました。


■違和感と暗示。そしてその正体。

物語のなかにはいくつかの違和感があります。
個人的に気になった点は以下の通り。
・自分の小屋の中を歩くとき、なぜか慎重に大股歩きするエデン。
・毎日小屋の掃除をする際にドアの蝶番を念入りに掃除するエデン。
・時折、ベッドに腰かけて近くの壁をなぞる仕草をするエデン。
・新しく連行された奴隷ジュリアがエデンに対し発した言葉「あなたを知っている」
・将軍がスマホを手に取り電話に出ているシーンがある。
・ヴェロニカの前に現れた、南北戦争時代の白人少女。

時間軸が交錯しているような描写もあり、小さな出来事でエデンとヴェロニカに対してなにか暗示をもたらしているのだなと考えて見ていました。

しかし、その考えは終盤のシーンですべて崩れ去ります。

将軍が眠っている隙にエデンがこっそり抜け出し、将軍のスマホを手にとってイーライと話していたときのセリフ、「小屋は電波が通ってる」
これを聞いて、『え?そのスマホは暗示を示唆するアイコンみたいなものじゃないの?ガチのスマホなの?』と思った瞬間に私の中で何かが大きく弾けて謎が解けました。
今と昔、現代と南北戦争時代、そうしてふたつの時代を描いていると思っていたのは大きな間違いでした。
多くの黒人男女が奴隷として強制労働させられているのは、現代のアメリカのどこか、だった訳です。
そして奴隷のエデンは誘拐されたヴェロニカ、そのひとであったと。
このあたりから、伏線とも思っていなかったものさえ伏線として回収されます。
「古屋の中で慎重に大股歩きをしていた」のは逃げる時に一部軋む床板を踏まないためであり、
蝶番を念入りに掃除していたのは、何かを塗りつけて開閉をスムーズにさせドアを開く際に音を立てないためであり、
時折、ベッドに腰かけて近くの壁をなぞっていたのは、壁にこっそり掘ったであろう娘の絵に似たものをものをなぞって家族を想っていたのであり、
前半にヨガをしていた描写は、驚くほど軽い身のこなしで将軍が眠るベッドから抜け出すシーンへの布石でした。(ここは鮮やかすぎて笑っちゃう人がいるかもしれない。チャーリーズエンジェルみたいな)
よくよく考えたらヴェロニカがリモートで取材を受けた際、「あなたはヘッドハンターね」と言ったヴェロニカに対してインタビュアー(=プランテーションの夫人)が爆笑したのは、”プランテーションに連行する人物を選考しているのに、呑気に「ヘッドハンター」だなんて”といった感覚だったのだろうということも分かります。
そしてジュリアがエデンのことを知っていたのは、元々エデンが有名な活動家であり作家(=ヴェロニカ)だったから。

将軍がスマホで誰かと話していた時のセリフ「あの男が哀れな娘を使ってテレビに〜」というのは間違い無くヴェロニカの家族のこと。
将軍と呼ばれていた者は実際のところ選挙を控えた白人至上主義の上院議員だったので、人種差別に対する活動家であり、かつ世間から注目されている作家のヴェロニカが邪魔だったのでしょう。


■エデン、もといヴェロニカが居た場所

ヴェロニカがいた場所は、将軍(=上院議員)の所有する「南北戦争再現パーク」という場所。
表向きレジャー施設のような扱いだったのでしょうが、ヴェロニカたち奴隷が暮らしていた場所はそのさらに奥の立入禁止区域でした。
そこでひっそりと、残虐な行いを繰り返していたのでしょうね。
映画冒頭、引きでプランテーションを見せるシーンではよく見ると遺体の焼却場から煙が上がっていました。犠牲になった誰かが、この冒頭シーンですでに燃やされていたのです。私たち映画の観客がそれに気付くのは、恐らく殆どが2周目。
最終的にはヴェロニカが上院議員のスマホで位置情報を送ったことにより警察が駆けつけますが、後にパークが解体されるところはエンドロール中に非常にシンプルなかたちで示されます。
その後、議員はどれくらいの罪に問われたのだろうか…兵士として”パークで遊んでいた”あの男たちはの罪状は…考えるだけでおぞましいですし、日本の感覚では裁判もかなり長いことかかるのだろうなと…。
リアルガチの「全米が震撼」案件です。


■とにかく騙された!

構成から見せ方から、もうお見事でした。
前世とか因果とか時代とか、そういう話だろうと考えていたので完全にミスリードに引っ掛かったわけですね!!笑
どんでん返し系の映画はいくつ見たか分からないほど沢山見ていますが、それでも本当に気付きませんでした…前世(もしくは先祖)と思わせるの本当にお上手なんだもん……
どこか無垢に見えた兵士の青年も、結局はあぁいう思想のもとあのパークを訪れていたのだから突然激昂し暴力的になるのも頷けます。
内容としては重たいですし、ウッとなる箇所もあるものの、これは何も情報を入れないまま鑑賞してほしいなと思う作品でございました。
そしてやはり他国の歴史ってそれらを表すワードは知っていても、詳しいことは何もわからないものだなぁと実感(反省)しました。

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